東京地方裁判所 昭和62年(ワ)1875号 判決
一 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第二号証の一、二によれば、本件発明の構成要件は、請求の原因3(一)ないし(五)のとおりであると認められる。
三 そこで、被告製品(一)が本件発明の構成要件(四)を充足するか否かについて、以下判断する。
1(一) 前掲甲第二号証の一、二によれば、(1)本件発明は、ハウジング内に軸線方向に滑動可能の銃身を有し、銃身の後端に薬室を設け、マガジンに収容された薬包が発火位置に案内される火薬作動鋲打込み工具に使用するマガジンに関するものであるところ、従来のこの種工具においては、薬包を引出し又は押込み装置によつてマガジンから外して薬室内に導入し、薬室を通常の方法で閉鎖してから発火させていたが、この種の薬包導入装置は高価であるうえ、薬包がマガジンに密着していて確実に抽出されないことがあり、更に、引出し又は押込み機構自体に故障を生ずることがある等の欠点があつたこと、(2)本件発明は、これら欠点の解消、すなわち、薬包案内装置を設けた駆動工具に適合し、安価に製造でき自動マガジン送りを行うことのできるマガジンの提供を目的とし、この目的を達するため、本発明によるマガジンは工具の送り機構に適合する順次位置に薬包を収容した合成樹脂製の使い捨てマガジンとし、薬包の発火は薬包をマガジンの合成樹脂部分に掛合した状態で行うこととして、高価な薬包導入装置を不要としたうえ、その場合の薬室の密閉については、マガジンを薬室と薬室閉鎖部材との間に圧着し、マガジンの合成樹脂部分が密閉薬室の一部を形成するようにして行うこととして、前記特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであること、(3)マガジンの合成樹脂部分が密閉薬室の一部を形成する仕方について、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「本発明マガジンを用いる打込み工具の好適な実施例においては、所謂衝撃ピストン型工具等の銃身の発火ガス通過開口部の断面積を銃腔の断面積よりも小とし、薬室または銃身と薬室閉鎖部材とのそれぞれに互にかみ合う掛合部を設けて銃身を閉鎖部材に対して圧着する爆発後座力が作用した時に上記掛合部を接触させ、掛合部の接触時の薬室壁部と薬室閉鎖部材に接触する薬包の底部とほぼ円筒形部分との中間部との距離は薬包を囲むマガジンの中間部の厚さよりも僅かに小とし、マガジンが破損することなく薬室の作動圧力に対するパツキンとして作用する構成とする。かくすると薬包周囲のマガジンは外からの大きな衝撃荷重に際して静止位置を保ち、発火圧力の後座力によつて銃身は封鎖の方向に動く。同時にガス圧力は合成樹脂マガジンと薬室との間から逃れることもなく、合成樹脂マガジンと薬包との間から逃れることもなく、封鎖のためのパツキンとして十分な耐圧力を有する。」(本件公報二頁三欄八行ないし二六行)と記載されていること、(4)マガジンを薬室と薬室閉鎖部材との間に圧着し、マガジンの合成樹脂部分が密閉薬室の一部を形成するようにして薬室の密閉を行う方法を実施例に即して説明すると、(イ)マガジンを装着する鋲打銃の構造は、本判決添付の本件公報の第1図に示すとおりであつて、同銃を打込材等の対象物に圧着すると、銃身2は後退し、銃身延長部30に設けた薬室6内にマガジンに収容された薬包5が入り、マガジン部材の薬包を囲む部分が薬室6に掛合し、薬包5の底部5aが薬室閉鎖部材31の突起部31aに接触し、銃身延長部30の圧着によつて薬室閉鎖部材31は圧力を受けること、(ロ)この状態を示したのが本件公報の第3図であり、同図に示されている銃身後部のリング状の肩部30a及び薬室閉鎖部材31に設けられた側壁部16cが、本件明細書の前記引用部分に「薬室または銃身と薬室閉鎖部材とのそれぞれに互にかみ合う掛合部を設けて」とある「掛合部」であること、(ハ)右第3図の状態では、右掛合部30aと16cは接触しておらず、その間には間隙Sが存在するが、これは、マガジンの特定部分の厚さが、右掛合部接触時における銃身延長部30のマガジン接触部分と、薬室閉鎖部材31に接触する薬包の特定部分との間の距離よりも、大きいからであり、これを、本件明細書の前記引用部分では、「掛合部の接触時の薬室壁部と薬室閉鎖部材に接触する薬包の底部とほぼ円筒形部分との中間部との距離は薬包を囲むマガジンの中間部の厚さよりも僅かに小とし」と表現していること、(ニ)右の「薬室閉鎖部材に接触する薬包の底部」は別紙参考図(本件公報の第3図の薬室付近を拡大したもの)の5bの部分であり、「ほぼ円筒形部分」は5cの部分であつて、その「中間部」は5dの部分であるから、「薬室壁部と…中間部との距離」は、右5dの部分と薬室側の30cの部分の間の距離を意味することになり、「薬包を囲むマガジンの中間部の厚さ」は図面の5dと30cに挟まれることになる17cの部分の厚さを指しているから、本件明細書の右引用部分の趣旨は、右の17cの部分のマガジンの厚さを、5dと30cの間の距離よりも僅かに厚くしておくことを意味しており、その結果、鋲打銃を対象物に押しつけても、銃身はこの部分のマガジンの厚さに遮られて後退しきれず、掛合部16cと30aとの間に隙間Sが残るようになること、(ホ)本件公報の第3図に示すような間隙Sがある状態で薬包を爆発させると、銃身に作用する爆発力によつて肩部30aは更に後退し、本件公報の第4図に示されているように側壁部16cに接触して掛止し、その結果「マガジンの中間部」は、間隙Sに対応する分だけ銃身延長部30によつて圧縮され、この圧縮部分がパツキングとして作用し、薬室を密閉することになり、一方、右圧縮は間隙Sに対応する僅かなものであり、銃身から閉鎖部材に対する爆発力の伝達は主として肩部30aと側壁部16cとの間で行われ、爆発による荷重をマガジンの薬包包囲部が負担する必要はないため、マガジンの変形量は小さく、永久変形又は剪断することはないこと、(ヘ)以上のようなマガジンによる薬室密閉作用を本件明細書の前記引用部分では、「マガジンが破損することなく薬室の作動圧力に対するパツキンとして作用する構成とする。かくすると薬包周囲のマガジンは外からの大きな衝撃荷重に際して静止位置を保ち、発火圧力の後座力によつて銃身は封鎖の方向に動く。同時にガス圧力は合成樹脂マガジンと薬室との間から逃れることもなく、合成樹脂マガジンと薬包との間から逃れることもなく、封鎖のためのパツキンとして十分な耐圧力を有する。」と表現しているが、図面に基づく実施例の説明中においても、「第3図の例では、寸法Aと寸法Bとの差はマガジン17の厚さの寸法Mより〇・〇八~一二mm小さくする。このように寸法差を僅かとすることによつてマガジン17の第4図に示す遷移部Yにある合成樹脂物質が薬包発火の際の圧力を受けた場合に上述の通り変形量が小さいため永久変形または剪断することはない。薬包底部と薬室との間の遷移部は薬室内に存在する合成樹脂部分に対する絞り部分を形成する。この絞り部分は火薬爆発の際の大きな圧力の作用によつて合成樹脂の流れを生ずるのを防ぐ作用を有する。」(本件公報三頁五欄二二行ないし三二行)と説明しており、右の「遷移部Y」は、本件公報の第4図からも明らかなように、「マガジンの中間部」を指していること、以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、本件発明は、安価に製造でき、自動マガジン送りを行うことのできるマガジンを提供するという目的を達成するため、薬包を収容した合成樹脂製の使い捨てマガジンとし、マガジンの合成樹脂部分が密閉薬室の一部を形成するようにしたものであるが、そのためには、破壊されやすい合成樹脂製のマガジンが破壊されることなく、かつ、十分なパツキング作用を営むようにするとの課題を解決する必要があり、この課題を解決するために本件発明は、銃身の後退による衝撃を受ける部分をマガジン中の特定部分である「中間部」に集中させるとともに、当該部分の厚さを、銃身が後退した際における「薬室の壁部」と「薬室閉鎖部材に接触する薬包の底部とほぼ円筒形部分との中間部」との間の距離(すなわち、「マガジンの中間部」を挟むことになる距離)よりもわずかに厚くしておくという構成を採用し、これにより、火薬爆発時における銃身の後退距離を僅かな距離に制限して薬包発火の際の衝撃力を主として銃身と薬室閉鎖部材との間の「掛合部」で受け止め、マガジンに対してはそれを破壊する程の強い衝撃力が及ばないようにしつつ、かつ、「マガジンの中間部」が密閉パツキングとなり、爆発時のガスがマガジンの周囲から漏れないようにしたものというべきであり、したがつて、本件発明の構成要件(四)にいう「工具の密閉パツキングとなし易い形状」は、「マガジンの中間部」が薬包発火時における密閉パツキングとなるような形状を意味しているものと解すべきである。
(二) 次に、右認定判断によれば、本件発明の構成要件(四)にいう「先細」も、「工具の薬室の形状よりも先細」の趣旨に理解される。すなわち、仮に、薬包抱持部のほぼ円錐形の外周面が全面で薬室内壁と接触するような形状にすると、マガジンを装填した際に、マガジンの円錐形部分全体が薬室内壁と密接する状態となつて、両者を「マガジンの中間部」でのみ接触させ、薬包爆発時に、その部分を密閉パツキングとして、薬室内に存在する合成樹脂部分に対する絞り部分を形成するという前示本件発明の技術的思想を実現することができなくなつてしまうからである。また、本件発明の構成要件(二)において、薬包抱持部はほぼ円錐の外形を有するものであることが要件とされているところ、円錐の外形といえば、それ自体先が細くなつているのであるから、構成要件(四)にいう「先細」が、単に先が細くなつていることを意味するものと解すると、構成要件(四)において「先細」を要件としたことが無意味となつてしまうのである。このことからも、構成要件(四)にいう「先細」は、「先細として工具の薬室の密閉パツキングとなし易い形状とした」ことに意味があるのであつて、前記のような「マガジンの中間部」を密閉パツキングとするのに適した形状としての「先細」すなわち、装填した場合に薬室内壁より「先細」になつていることを意味するものと解すべきである。
(三) 以上によれば、本件発明の構成要件(四)は、「前記薬包抱持部のほぼ円錐形の外形は、工具薬室への装填時において工具薬室の形状よりも先細となるようにして、薬包発火時におけるマガジンの底部と円錐形部の中間部が、工具の密閉パツキングとなるような形状とした」ことを意味するものと解するのが相当である。
2 ところで、仮に、被告らが別紙目録(一)記載の被告製品(一)を製造又は販売しているとしても、同目録(一)の記載によれば、被告製品(一)が前示意味を有する本件発明の構成要件(四)を充足するものと認めることはできない、といわざるをえない。この点に関して、原告らは、被告製品(一)は被告らの製品である鋲打銃に装填可能であり、しかも、鋲打ち作業を可能とするものであるから、装填した場合に、工具の薬室の密閉パツキングとなしうる形状を具えていることは明らかであると主張するが、公証人作成部分の成立に争いがなく、右公証人作成部分によりその余の部分の成立が認められる乙第一七号証によれば、鋲打銃の薬室密閉の方式には、薬包管体による方法も存在することが認められ、右認定の事実によると、被告製品(一)が鋲打銃に装填可能であり、鋲打ち作業を可能とするものであるからといつて、被告製品(一)の薬室密閉の方式をもつてマガジンの合成樹脂部分が密閉薬室の一部を形成する方式を用いているものと推認することはできず、したがつて、原告らの右主張は、採用することができない。
四 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註その二〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。「複数個の薬包を順次配列収容する合成樹脂製のほぼ条片状の底部と、薬包の周囲を抱持しこれと一体に形成したほぼ円錐の外形を有する薬包抱持部とを有し、前記底部には工具の順送り機構と噛合する複数個の切欠部を設け、前記薬包抱持部のほぼ円錐形の外形は先細として工具の薬室の密閉パツキングとなし易い形状としたことを特徴とする火薬作動鋲打込工具用マガジン。」
〔編註その三〕 本件発明の構成要件は、左のとおりである。
(一) 複数個の薬包を順次配列収容する合成樹脂製のほぼ条片状の底部を有すること
(二) 薬包の周囲を抱持しこれと一体に形成したほぼ円錐の外形を有する薬包抱持部を有すること
(三) 前記底部には工具の順送り機構と噛合する複数個の切欠部を設けること
(四) 前記薬包抱持部のほぼ円錐形の外形は先細として工具の薬室の密閉パツキングとなし易い形状としたこと
(五) 火薬作動鋲打込工具用マガジンであること
〔編註その三〕 本件発明の構成要件は、左のとおりである。
(一) 複数個の薬包を順次配列収容する合成樹脂製のほぼ条片状の底部を有すること
(二) 薬包の周囲を抱持しこれと一体に形成したほぼ円錐の外形を有する薬包抱持部を有すること
(三) 前記底部には工具の順送り機構と噛合する複数個の切欠部を設けること
(四) 前記薬包抱持部のはぼ円錐形の外形は先細として工具の薬室の密閉パツキングとなし易い形状としたこと
(五) 火薬作動鋲打込工具用マガジンであること
〔編註その一〕 本件における特許権は左のとおりである。
特許番号 第九二四七三三号
発明の名称 火薬作動鋲打込み工具用マガジン
出願日 昭和四三年一一月二九日
公告日 昭和四九年一月二六日
登録日 昭和五三年九月二二日